『私たちが通ったアメリカの学校ー小・中・高校フィールドワーク』(2011年自費出版,ISBN 978-4-901242-95-0)本書に描かれたのはアメリカの普通の公立学校の生活.あれから早10年・・・みんな元気にしているかな?学校はどうなっているだろう.2012年3月コロラドの春の日射しの中で『私たちの学校の今』を見つける旅が始まった.アメリカ庶民の素顔に迫る写真満載の続編スタート.Time goes by fast!

2012年4月5日木曜日

最高のロールモデル



「両語がきちんと使えるようになれば,僕だって,弁護士,教師,カウンセラー,コンサルタントなどになれる可能性・・・あるよね」(第7章 -3たくましきバイリンガル家族G家p320)


本書を手にポーズ!渋いシャツとタイが決まってるぜ!!

『私たちが通ったアメリカの学校』2012年春編.そのトップを飾るのは,彼をおいて他にはいない.G家のW君.現在,アメリカを代表する大規模スーパーWのストアマネージャー.目下,新店舗開店に向けて大忙しの日々だとか・・・
彼は本書の最重要登場人物のひとりだ.何せ中学(M中)への登校初日,誰一人知る人のいない私たちに,いきなり話しかけてくれたその人である(P39〜40).彼とその家族がいたから,私たちはアメリカで実りある生活を送ることが出来た.本当にありがとう!

その頃の彼は気のいいヤツではあったが,イマイチ決め手に欠けていた.その後,紆余曲折がたくさんあったのだが,地道に努力もしたようだ.本書ではすでに「大規模スーパー地元店のサブマネージャーとして『両語を駆使する忙しい毎日』」と彼の活躍ぶりを伝えている(p322).その肩書きからサブがとれ,もうワンステップ出世したのだから,本当にたいしたものだ.彼に「あなたは日本にいる “外国につながる子どもたち” の最高のロールモデルになるだろう.ぜひブログに載せたい.写真もいい?」と聞いたら,快く承諾してくれた.

改めて彼の道筋をたどってみよう.
メキシコ生まれ,2才の時,家族そろってアメリカに移住.その後,妹が3人生まれ,合計8人の大家族(彼は6人兄妹の3番目)となる.経済的に大変だったが,お父さんは頑張って正規の介護職についた.以後どうにか生活は安定する.
 G4(小学校4年)までスパニッシュスクール(アメリカの公立小学校)に通い,スペイン語で学校生活を送った.家族の会話はもちろんスペイン語.G4の時コロラドに引っ越し,E小に転校.いきなり英語の世界に投げ込まれる.以後ずっと英語での学校生活.転校した時,英語はほとんどわからなかった.ESLで英語を学び,話すことは得意になるが,勉強には苦労する(まあ,彼本来の性格ゆえでもあるのだが・・・).6年(修業年限4年+2年)かけて高校を卒業.その後,昼はコミュニテイカレッジ(勉強),徹夜のアルバイト,明け方睡眠の生活を3年間.スーパーWに就職.サブマネージャーを経て今年(2012年),ある新店舗のマネージャーに昇進.目下開店準備に追われている」


 彼が今の職に就き,昇進できた理由は二つありそうだ.ひとつはスペイン語,英語のバイリンガル(読み書きレベル)になれたこと.Wではたくさんのメキシコ人が働いている.上司はもちろんアメリカ人だ.そのどちらもが彼の能力(仕事のレベルで両語が使える)を必要としたのだろう(彼のスペイン語能力については,本書第7章に詳しい)
 彼のスペイン語の読み書き能力の基礎は,低学年でのスパニッシュスクール通いで身についた.さらに家庭ではスペイン語を話すよう,親から厳しく指導されていた(英語のできない母親が,子どもたちが自分にわからない話をするのを嫌ったからだ:p318).アメリカにいるメキシコ人の子どもの多くは,母語であるスペイン語を失ってしまう.親の言うことはわかっても,話す,読む,書くが出来る子はなかなかいない(日本にいる“外国につながる子ども”も,その多くが母語喪失の危機にある).英語しかできないメキシコ人とアメリカ人が並んだら勝負は見えている
 もう一つは,生まれながらのポジションのせいか,人とのつきあいが上手なこと.彼の妹であるCさん(同じWで店員として働いている)は
「W君は,店の同僚や上司と大変いい関係を築いている.プライベートタイムでもよく仲間の面倒を見ている.だから昇進できたんだと思う.私はこういうのって苦手なんだよね」
 10年前,彼は6人兄妹の3番目という中間管理職ポジションを嘆いていた.「生まれた時だって,だれも祝福してくれなかったし,何かにつけて我慢させられるし・・・」(p318〜319).その苦労は無駄ではなかった.
 スーパーWは能力主義だという.出自や学歴ではなく,仕事内容での勝負.彼にとって最高の職場が見つかって本当によかった.


 ということで,ここまでは言うこと無しの彼だが,さらなる注文もでている.彼の恩師,H高のアドミニストレーター(R先生:本書第4章に登場)から伝言を託かった.
「カレッジのディプロマ(修了資格)をとること!!」
コミュニティカレッジに通っていた彼だが,実はまだ修了していないのだ.ディプロマがあれば,仕事の面でもさらなる飛躍がのぞめる.アメリカでは,働きながら勉強する環境が整っている.チャレンジあるのみだ.晴れてディプロマがとれたら,その時はぜひ日本に来て仕事をして欲しい.日本に進出したスーパーWは苦戦を強いられているのだから・・・